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東京高等裁判所 平成10年(行ケ)271号 判決 1999年5月25日

神奈川県川崎市幸区堀川町72番地

原告

株式会社東芝

代表者代表取締役

西室泰三

訴訟代理人弁理士

大胡典夫

外川英明

井上正則

東京都千代田区霞が関目三丁目4番3号

被告

特許庁長官

伊佐山建志

指定代理人

阿部利英

内藤照雄

松野高尚

井上雅夫

廣田米男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第1  原告が求める裁判

「特許庁が平成9年異議第73094号事件について平成10年7月17日にした決定を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

第2  原告の主張

1  特許庁における手続の経緯

原告は、発明の名称を「ディスクプレーヤ装置」とする発明(以下「本件発明」という。)について昭和62年9月30日に特許出願(昭和62年特許願第244007号)をし、平成8年11月7日に特許権の設定登録(特許第2579955号)を受けた。

しかるに、本件発明の特許に対して特許異議の申立てがされ、特許庁は、これを平成9年異議第73094号事件として審理した結果、平成10年7月17日に「特許第2579955号の特許を取り消す。」との決定をし、同年8月5日にその謄本を原告に送達した。

なお、原告は、上記異議事件において、平成10年1月20日に明細書の訂正を請求し、同年6月25日に「補正をした訂正請求書」(この請求書に係る訂正を、以下「本件訂正」という。)を提出したが、上記決定において、本件訂正は認められない旨の判断がされている。

2  本件発明の特許請求の範囲

(1)本件訂正前の特許請求の範囲(以下「訂正前発明」という。)

被再生信号として、データ信号あるいは、音声信号がその種別を示す種別情報信号と共にデジタル化されて収録されたディスクから、当該被再生信号を読み出して、再生するディスクプレーヤ装置であって、

ディスクに収録されたデジタル信号を読み取るピックアップと、

ディスクから読み取られたデジタル信号のうち音声信号を、アナログ変換するための変換手段と、

アナログ変換された音声信号が出力される音声信号出力端子と、

前記ピックアップによって、読み取られたデジタル信号から、前記被再生信号と、前記種別情報信号とを復調する復調手段と、

前記復調手段によって復調された前記種別情報信号から、前記被再生信号の種別を判定する信号種別判定手段と、

前記信号種別判定手段によって判定された前記被再生信号の種別が、音声信号ではない場合、前記音声信号出力端子から当該被再生信号が出力されることを防止する出力制御手段を具備したことを特徴とするディスクプレーヤ装置。

(2)本件訂正後の特許請求の範囲(以下「訂正後発明」という。)

被再生信号として、データ信号あるいは、音声信号がその種別を示す種別情報信号と共にデジタル化されて収録されたディスクから、当該被再生信号を読み出して、再生するディスクプレーヤ装置であって、

ディスクに収録されたデジタル信号を読み取るピックアップと、

前記ピックアップによって、読み出されたデジタル信号を、前記被再生信号と、前記種別情報信号を含むサブコードとに分離する復調手段と、

この復調手段によって分離された前記被再生信号を、アナログ変換するための変換手段と、

この変換手段によって変換された音声信号を最終的に出力する音声信号出力端子と、

前記復調手段によって分離された前記サブコードの種別情報信号から、前記被再生信号の種別を判定する信号種別判定手段と、

前記変換手段と音声信号出力端子との間に設けられ、且つ、前記ピックアップにより読み出されたデジタル信号から分離されたサブコードの種別情報信号が、前記信号種別判定手段により音声信号でないと判断された場合、この信号種別判定手段の出力に応じて、このデジタル信号から分離された被再生信号が、前記変換手段を介して前記音声信号出力端子に出力されることを防止する出力制御手段とを具備したことを特徴とするディスクプレーヤ装置。

3  決定の理由

別紙決定書の理由写しのとおり(以下、決定にいう「刊行物1」、すなわち昭和60年特許出願公開第119671号公報を「引用例」という。)

4  決定の取消事由

決定は、訂正後発明が引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたことを理由として本件訂正を認めなかったものであるが、この判断は誤りである。そして、この判断の誤りは、本件発明の特許を取り消した決定の結論に影響を及ぼすことが明らかであるから、決定は取り消されるべきである。

(1)一致点の認定の誤り

コンパクトディスクには、内周側から外周側に向かって、リードイントラック、プログラム情報領域、リードアウトトラックが形成されているところ、訂正後発明は、種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されており、したがって、信号種別判定がプログラム情報領域の各ブロックごとにされることを特徴とするものである。それゆえにこそ、訂正後発明は、復調手段及び信号種別判定手段を必須の要件としているのである。

一方、引用例記載の発明は、リードイントラックに記録されているサブコード(通常「TOC」(Table of Contents)と称されている。)に基づいて、プログラム情報領域に記録されている被再生信号の種類(例えば、音楽データあるいはスチル画データのいずれか一方のみが記録されているのか、音楽データとスチル画データの両方が記録されているのか)を判定し、音声出力をするか否かを制御するものであって、プログラム情報領域の各ブロックごとに記録されているサブコードは、被再生信号の種別判定には使用されていない(このことは、引用例の「ディスクプレーヤ31が開始位置6から第1のリードイントラックを再生すると、リードイントラックに記録されたサブコーディング信号のQチャンネルのTOCデータを再生し、このTOCデータがディスクプレーヤ31のシステムコントローラ及びコントローラ41に供給される。Qチャンネルのコントロールピットが(01×1)とされていると、ディスクプレーヤ31のピックアップは、(中略)プログラム領域4の再生を行なわず、この領域をジャンプし、第1のリードアウトトラックのスタート位置から再び再生動作を開始する。」(7頁右上欄3行ないし14行)との記載から明らかである。)。そのため、引用例記載の発明においては、復調手段及び信号種別判定手段が必須の要件ではないのであって、現に、引用例には復調手段及び信号種別判定手段の構成が具体的に記載されていないのである。

以上のとおりであるから、引用例記載の発明が「復調手段」及び「信号種別判定手段」を有することは自明であるとして、訂正後発明と引用例記載の発明は「復調手段」及び「信号種別判定手段」を備える点において一致するとした決定の認定は、誤りである。

この点について、被告は、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードはTOCを含む旨主張する。

しかしながら、訂正後発明の特許請求の範囲における「ピックアップにより読み出されたデジタル信号から分離されたサブコードの種別情報信号」、「このデジタル信号から分離された被再生信号」との記載によれば、ピックアップによってある瞬間に読み出されるデジタル信号が、サブコードと被再生信号とが対になって構成されているものであることは明らかである。そして、サブコードと被再生信号とが対になって構成されているデジタル信号は、プログラム情報領域のみに記録されるのであるから、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードはTOCを含む旨の被告の主張は誤りである。

(2)相違点の判断の誤り

決定は、音声信号出力端子の前段に出力制御手段を設けることは周知慣用技術であるから、相違点に係る訂正後発明の構成は当業者が容易に想到しえた旨判断している。

しかしながら、訂正後発明は、種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されており、したがって、信号種別判定がプログラム情報領域の各ブロックごとにされることを前提とし、出力制御手段を音声信号出力端子の前段に設けることによって、各種の被再生信号が複雑に入り交じって記録されているディスクについても、迅速かつ正確な出力制御を実現するものであるから、周知慣用技術のみを論拠とする決定の上記判断は失当である。

また、決定は、引用例の記載を援用して、「サブコードの種別情報信号が信号種別判定手段により音声信号ではないと判定された場合、この信号種別判定手段の出力に応じて、デジタル信号から分離された被再生信号が、変換手段を介して音声信号出力端子に出力されることを防止する」構成は、当業者が容易に想到しえた旨判断している。

しかしながら、訂正後発明が、種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されており、したがって、信号種別判定がプログラム情報領域の各ブロックごとにされることを前提とすることは前記のとおりである。しかるに、決定が援用している引用例の記載は、TOCに基づいてプログラム情報領域に記録されている被再生信号の種類を判定し、音声以外の再生信号が記録されていると判定したときは音声出力をミューティングするというものにすぎないから、決定の上記判断は、根拠を欠くものであって、誤りである。

(3)仮に本件訂正が許されないとしても、本件発明及び引用例記載の発明の技術内容に関する決定の認定は前記のように誤っているから、訂正前発明は引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたとする決定の判断も誤りである。

第3  被告の主張

原告の主張1ないし3は認めるが、4(決定の取消事由)は争う。決定の認定判断は正当であって、これを取り消すべき理由はない。

1  一致点の認定について

原告は、訂正後発明は種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されており、したがって、信号種別判定がプログラム情報領域の各ブロックごとにされることを特徴とする旨主張する。

しかしながら、訂正後発明の特許請求の範囲はもとより、発明の詳細な説明にも、種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されているものに限定されることは記載されていない。したがって、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードは、リードイントラックに記録されているTOCをも含むものと解するほかはない(ちなみに、引用例の第3図Bによれば、引用例記載の発明においても、プログラム情報領域の各ブロックごとにサブコードが記録されていることが明らかであるが、引用例には、プログラム情報領域に記録されているサブコードを被再生信号の種別判定に使用しないことは明記されていない。)。

そして、引用例の「ディスクプレーヤ31により再生されたステレオ音楽信号が(中略)復調、エラー訂正、補間、D/A変換などの処理がされて」(6頁右上欄10行ないし13行)との記載は、引用例記載の発明が復調手段を有していることを示すものである。また、引用例記載の発明がTOCに含まれている種別情報信号から、プログラム情報領域に記録されている再生信号の種類を判定していることは明らかであるから、訂正後発明と引用例記載の発明が「復調手段」及び「信号種別判定手段」を備える点において一致するとした決定の認定に誤りはない。

2  相違点の判断について

原告は、訂正後発明は、種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されており、したがって、信号種別判定がプログラム情報領域の各ブロックごとにされることを前提とする相違点に関する決定の判断は誤りである旨主張する。

しかしながら、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードが前記のとおりTOCを含むものである以上、原告の上記主張は、訂正後発明の技術内容に基づかないものであって失当である。

理由

第1  原告の主張1(特許庁における手続の経緯)、2(本件発明の特許請求の範囲)及び3(決定の理由)は、被告も認めるところである。

第2  甲第4号証(補正をした訂正請求書添付の訂正明細書)によれば、訂正後発明の概要は次のとおりと認められる。

1  技術的課題(目的)

ディスクプレーヤによって再生されるディスクとしては音楽用のコンパクトディスクが普及しているが、最近は産業用のデータベースとしてのディスクも利用されつつある(2頁2行ないし6行)。

しかしながら、従来のディスクプレーヤは、データベースを構成するデータ信号を記録したディスクを再生する場合にも、データ信号を音声信号として復調し再生するので、アンプ等の周辺機器を破損するおそれや、不快な可聴音を生ずるおそれがある(2頁9行ないし13行)。

本件発明の目的は、従来技術が有する上記の問題点を解決することである(2頁14行)。

2  構成

上記の目的を達成するために、本件発明は、その特許請求の範囲記載の構成を採用したものである(1頁5行ないし22行)。

3  作用効果

本件発明によれば、被再生信号が音声信号でない場合は、音声信号の出力端子から当該被再生信号が出力されることを防止するので、使用者にとって不快な可聴音が発生されることのない、良好なディスクプレーヤ装置を得ることができる(5頁13行ないし17行)

第3  そこで、原告主張の決定の取消事由の当否について検討する。

1  原告は、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードはプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されており、したがって、信号種別判定がプログラム情報領域の各ブロックごとにされるため、訂正後発明は復調手段及び信号種別判定手段を必須の要件としているのに対して、引用例記載の発明は、TOCに基づいてプログラム情報領域に記録されている被再生信号の種類を判定するものであって、プログラム情報領域の各ブロックごとに記録されているサブコードは被再生信号の種別判定には使用されておらず、引用例記載の発明においては復調手段及び信号種別判定手段が必須の要件ではない(現に、引用例には復調手段及び信号種別判定手段の構成が具体的に記載されていない)から、決定の一致点の認定は誤りである旨主張する。

検討するに、訂正後発明の特許請求の範囲は、前記事実第2の2(2)のとおりであるが、これから「種別情報信号を含むサブコード」あるいは「種別情報信号」に関連する記載を摘録すると、次のとおりである。

a  「被再生信号として、データ信号あるいは、音声信号がその種別を示す種別情報信号と共にデジタル化されて収録されたディスク」

b  「ピックアップによって、読み出されたデジタル信号を、前記被再生信号と、前記種別情報信号を含むサブコードとに分離する復調手段」

c  「復調手段によって分離された前記サブコードの種別情報信号」

d  「ピックアップにより読み出されたデジタル信号から分離されたサブコードの種別情報信号」

上記aの記載が、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されたものに限定されるとする論拠になりえないことは明らかである。また、上記bないしdの記載における「分離」の用語は、原告のいう「ある瞬間に読み出されるデジタル信号が、サブコードと被再生信号とが対になって構成されているもの」から種別情報信号を含むサブコードを分離して処理することを意味するに止まらず、上記aの記載にいう「被再生信号として、データ信号あるいは、音声信号がその種別を示す種別情報信号と共にデジタル化されて収録されたディスク」からピックアップによって読み出されたデジタル信号が、被再生信号であるか種別情報信号を含むサブコードであるかに応じて、別個の処理をすることをも意味すると考えることができる。したがって、上記bないしdの記載も、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されたものに限定されるとする論拠にはならないというべきである。

以上のとおりであるから、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードは、リードイントラックに記録されているTOCを排除していないと解するのが相当である。そうすると、種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されたものであるならば、復調手段及び信号種別判定手段が必須の要件となり、種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されたものでないならば、復調手段及び信号種別判定手段は必須の要件とならないとする原告の前記主張は、本件発明の特許請求の範囲によって特定される技術内容と整合しないものといわざるをえない。

そして、甲第2号証によれば、引用例には「ディスクプレーヤ31により再生されたステレオ音楽信号が(中略)復調、エラー訂正、補間、D/A変換などの処理がされて」(6頁右上欄10行ないし13行)と記載されていることが認められるから、引用例記載の発明が復調手段を有していることは明らかである。また、引用例記載の発明がTOCに含まれている種別情報信号から、プログラム情報領域に記録されている再生信号の種類を判定していることは原告も認めるところであるから、訂正後発明と引用例記載の発明が「復調手段」及び「信号種別判定手段」を備える点において一致するとした決定の認定に誤りはない。

2  なお、原告は、相違点に係る決定の判断の誤りを主張するが、この主張は、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されており、したがって、信号種別判定がプログラム情報領域の各ブロックごとにされることのみを論拠とするものである。

しかしながら、訂正後発明の要件である種別情報信号を含むサブコードがプログラム情報領域の各ブロックごとに記録されたものに限定されないことは前記のとおりであるから、原告の上記主張は、訂正後発明の技術内容に基づかないものであって、失当である。

3  そうすると、訂正後発明は引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正は不適法であるとした決定の認定判断は正当でる。

4  なお、訂正前発明は、出力制御手段が設けられる位置を除いて、訂正後発明と実質的な差異がないから、訂正前発明は引用例記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであって、本件発明の特許は特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとした決定の認定判断も正当である。

第4  よって、決定の取消しを求める原告の本訴請求は、失当であるから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成11年4月27日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 春日民雄 裁判官 宍戸充)

Ⅱ.訂正の適否についての判断

ア.訂正請求に対する補正の適否について

特許権者は、訂正請求書により訂正された特許請求の範囲の記載「被再生信号として、データ信号あるいは、音声信号がその種別を示す種別情報信号と共にデジタル化されたティスクから、当該被再生信号を読み出して、再生するディスクプレーヤ装置であって、ディスクに収録されたデジタル信号を読み取るピックアップと、ティスクから読み取られたデジタル信号のうち音声信号を、アナログ変換するための変換手段と、アナログ変換された音声信号が最終的に出力される音声信号出力端子と、前記ピックアップによって、読み取られたデジタル信号から、前記被再生信号の種別判定する信号種別判定手段と、前記信号種別判定手段によって判定された前記被再生信号の種別が、音声信号でない場合、前記音声信号出力端子から当該被再生信号が出力されることを防止する出力制御手段を、前記音声信号出力端子の前段に具備したことを特徴とするディスクプレーヤ装置。」を

「被再生信号として、データ信号あるいは、音声信号がその種別を示す種別情報信号と共にデジタル化されて収録されたティスクから、当該被再生信号を読み出して、再生するディスクプレーヤ装置であって、ディスクに収録されてデジタル信号を読み取るピックアップと、前記ピックアップによって、読み出されたデジタル信号を、前記被再生信号と、前記種別情報信号を含むサブコードとに分離する復調手段と、この復調手段によって分離された前記被再生信号を、アナログ変換するための変換手段と、この変換手段によって変換された音声信号を最終的に出力する音声信号出力端子と、前記復調手段によって分離された前記サブコードの種別情報信号から、前記被再生信号の種別を判定する信号種別判定手段と、前記変換手段と音声信号出力端子との間に設けられ、且つ、前記ピックアップにより読み出されたデジタル信号から分離されたサブコードの種別情報が、前記信号種別判定手段により音声信号でないと判断された場合、この信号種別判定手段の出力に応じて、このデジタル信号から分離された被再生信号が、前記変換手段を介して前記音声信号出力端子に出力されることを防止する出力制御手段とを具備したことを特徴とするディスクブレーヤ装置。」とする補正を求めるものである。

この補正は、特許請求の範囲の構成要件をより理解を容易にするために表現を変えたこと、および同時に、本件発明の構成要件である

<1>出力制御手段が変換手段と音声信号出力端子との間に設けられている点。

<2>ピックアップにより読み出されたデジタル信号から分離されたサブコードの種別情報信号が、信号種別判定手段により音声信号でないと判断された場合に、この信号種別判定手段の出力に応じて、このデジタル信号から分離された被再生信号が、変換手段を介して音声信号出力端子に出力されることを防止する点。

の2点を限定するものであるから、上記補正を採用する。

イ.訂正明細書の請求項1に係る発明

平成10年6月25日付けで提出された訂正明細書の請求項1に係る発明は、その請求項1に記載された事項により特定されるとおりのものである。(上記補正された特許請求の範囲に記載された事項により特定される発明)ウ.引用刊行物の発明

当審が訂正拒絶理由通知において示した刊行物1には、次の事項が記載されている。

<1>ステレオ音楽データのみが記録された現行のコンパクトディスク及び2種類のデータ例えばステレオ音楽データ及びスチール画データが記録されたティスクの何れをも再生することができること。(第2頁左上欄第19行目~同頁右上欄第3行目)

<2>Qチャンネルに挿入されているコントロールビットは、第3図C示すように定められたものである。第3図Cにおいて×は、0又は1の何れでも良い未定義のビットを意味する。コントロールビット(00×0)は、プリエンフアシスがされていない2チャンネルオーデイオデータを意味し、(00×1)は、プリエンフアシスされている2チャンネルオーデイオデータを意味する。コントロールビット(10×0)(01×1)は、まだ定義されていないものである。(01×0)は、ディジタルデータ例えばスチル画データが記録されていることを意味する。(××0×)は、ディジタルデータのままコピーを禁止することを意味し、(××1×)は、ディジタルコピーを許容することを意味する。この発明の一実施例では、ステレオ音楽データとディジタルデータの両者が記録されているディスクの場合に、コントロールビットを(01×1)としている。(第4頁左上欄第9行目~同頁右上欄第6行目)

<3>第10図において、31がディスクプレーヤを示し、ディスクプレーヤ31により再生されたステレオ音楽信号が(14→8)復調、エラー訂正、補間、D/A変換などの処理がされて、出力端子32L、32Rに取り出される。デイスクプレーヤ31の出力端子32L、32Rの夫々には、再生ステレオ信号の左チャンネル及び右チャンネルの信号が得られる。(第6頁右上欄第9行目~第17行目)

<4>41は、マイクロコンピュータからなるコントローラを示す。このコントローラ41には、切出し回路40からのコントロールデータが供給されると共に、ディスクプレーヤ31からのサブコーデイング信号のQチャンネルの中に、再生されるデイスクに記録されている信号がステレオ音楽信号及びデイジタルデータの両者であることを示す識別コードに基づいて、デイスクプレーヤ31の再生出力信号路の切換を制御するコントロール信号を発生し、このコントロール信号をデイスクプレーヤ31に供給する。(第6頁左下欄第14行目~同頁右上欄第6行目)

<5>第1のリードイン領域からTOCデータを再生すると、第2のリードイン領域22及び第2のプログラム領域23の再生中では、オーデイオ出力が発生しないようなミューテイングがかけられる。(第7頁左下欄第8行目~第11行目)

<6>第1のリードイン領域から再生されるQチャンネル中のコントロールビットによって、再生信号処理回路の切替がなされると共に、オーデイオデータの再生系のミューティングがなされる。(第8頁左下欄第20行目~同頁右上欄第4行目)

エ.対比・判断

訂正明細書の請求項1に係る発明(以下「訂正発明」という。)と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載されたディスク再生装置が、訂正発明の構成要件であるところの「ピックアップ」、「復調手段」及び「信号種別判定手段」を有することは自明のことであるから両者は、

「被再生信号として、データ信号あるいは、音声信号がその種別を示す種別情報信号と共にデジタル化されて収録されたティスクから、当該被再生信号を読み出して、再生するディスクプレーヤ装置であって、ディスクに収録されてデジタル信号を読み取るピックアップと、前記ピックアップによって、読み出されたデジタル信号を、前記被再生信号と、前記種別情報信号を含むサブコードとに分離する復調手段と、この復調手段によって分離された前記被再生信号を、アナログ変換するための変換手段と、この変換手段によって変換された音声信号を最終的に出力する音声信号出力端子と、前記復調手段によって分離された前記サブコードの種別情報信号から、前記被再生信号の種別を判定する信号種別判定手段と、前記ピックアップにより読み出されたデジタル信号から分離されたサブコードの種別情報に応じて、このデジタル信号から分離された被再生信号が、前記変換手段を介して前記音声信号出力端子に出力されることを防止する出力制御手段とを具備したディスクプレーヤ装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点

訂正発明においては、出力制御手段が「変換手段と音声信号出力端子との間に設けられ、且つ、ピックアップにより読み出されたデジタル信号から分離されたサブコードの種別情報が、信号種別判定手段により音声信号でないと判断された場合、この信号種別判定手段の出力に応じて、デジタル信号から分離された被再生信号が、前記変換手段を介して前記音声信号出力端子に出力されることを防止する」ように構成されているのに対し、刊行物1にはそのような構成について明瞭に記載されていない点。

上記相違点について検討するに、ミューティングを行う場合、音声信号出力端子の前段に、出力制御手段を具備させることは周知慣用手段であるから、出力制御手段を「変換手段と音声信号出力端子との間に設ける」ことは、当業者が容易に想到し得るところである。

また、刊行物1には、コントロールビットについて、「(01×0)は、ディジタルデータ例えばスチル画データが記録されていることを意味する。」と記載されていること、及び「第2のリードイン領域22及び第2のプログラム領域23の再生中では、オーデイオ出力が発生しないようなミューテイングがかけられる。」ことが記載されているから、「サブコードの種別情報が、信号種別判定手段により音声信号でないと判断された場合、この信号種別判定手段の出力に応じて、デジタル信号から分離された被再生信号が、変換手段を介して音声信号出力端子に出力されることを防止する」ように構成することは、当業者が容易に想到し得るところである。

したがって、訂正明細書の請求項1に係る発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許出願の際独立して特許を受けることができないものである。

オ.むすび

以上のとおりであるから、上記訂正は、特許法第120条の4第3項で準用する同第126条第4項の規定に適合しないので、当該訂正はみとめられない。

Ⅲ.特許異議申立てについて

ア.本件発明

特許第2579955号の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「被再生信号として、データ信号あるいは、音声信号がその種別を示す種別情報信号と共にデジタル化されて収録されたディスクから、当該被再生信号を読み出して、再生するディスクプレーヤ装置であって、ディスクに収録されたデジタル信号を読み取るピックアップと、ディスクから読み取られたデジタル信号のうち音声信号を、アナログ変換するための変換手段と、アナログ変換された音声信号が出力される音声信号出力端子と、前記ピックアップによって、読み取られたデジタル信号から、前記被再生信号と、前記種別情報信号とを復調する復調手段と、前記復調手段によって復調された前記種別情報信号から、前記被再生信号の種別を判定する信号種別判定手段と、前記信号種別判定手段によって判定された前記被再生信号の種別が、音声信号ではない場合、前記音声信号出力端子から当該被再生信号が出力されることを防止する出力制御手段を具備したことを特徴とするディスクプレーヤ装置。」

イ.特許法第29条第2項違反について

当審が平成9年11月10日に通知した取消理由において引用した刊行物1には、上記Ⅱ.ウ.に記載のとおりの発明が記載されている。

本件発明と刊行物1に記載された発明とを対比すると、刊行物1に記載されたディスク再生装置が、訂正発明の構成要件であるところの「ピックアップ」、「復調手段」及び「信号種別判定手段」を有することは自明のことであるから、両者は、

「被再生信号として、データ信号あるいは、音声信号がその種別を示す種別情報信号と共にデジタル化されて収録されたディスクから、当該被再生信号を読み出して、再生するディスクプレーヤ装置であって、ディスクに収録されたデジタル信号を読み取るピックアップと、ディスクから読み取られたデジタル信号のうち音声信号を、アナログ変換するための変換手段と、アナログ変換された音声信号が出力される音声信号出力端子と、前記ピックアップによって、読み取られたデジタル信号から、前記被再生信号と、前記種別情報信号とを復調する復調手段と、前記復調手段によって復調された前記種別情報信号から、前記被再生信号の種別を判定する信号種別判定手段と、音声信号ではない信号は前記音声信号出力端子から当該被再生信号が出力されることを防止する出力制御手段を具備したことを特徴とするディスクプレーヤ装置。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点

本件発明においては、出力制御手段が「信号種別判定手段によって判定された被再生信号の種別が、音声信号ではない場合、音声信号出力端子から当該被再生信号が出力されることを防止する」ように構成されているのに対し、刊行物1にはそのような構成について明瞭に記載されていない点。

上記相違点について検討するに、刊行物1には、コントロールビットについて、「(01×0)は、ディジタルデータ例えばスチル画データが記録されていることを意味する。」と記載されていること、及び「第2のリードイン領域22及び第2のプログラム領域23の再生中では、オーデイオ出力が発生しないようなミューテイングがかけられる。」ことが記載されているから、「信号種別判定手段によって判定された被再生信号の種別が、音声信号ではない場合、音声信号出力端子から当該被再生信号が出力されることを防止する」ように構成することは、当業者が容易に想到し得るところである。

したがって、本件発明は、刊行物1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、本件発明についての特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

ウ.むすび

以上のとおりであるから、本件発明については、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

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